【手術の部位】 かた
1.腱板とは?
肩関節には外側(浅いところ)の筋肉と内側(深いところ)の筋肉があります(図1)。
内側の筋肉が骨に付く部分は板のように平べったくなっており、『腱板』と呼ばれます。
腱板は加齢とともに(特に50歳以降)弱くなります。そのためちょっと肩をひねったりぶつけただけで簡単に切れてしまいます(断裂)。しかも腱板には血のめぐりがほとんどないため、切れた部分が自然にくっつくことが期待できません。したがって肩の痛みや力が入りにくいなどの症状が続く場合には手術が必要となります。ほおっておくと(おおむね3~6か月以上)、筋肉がしぼんだり切れた部分が大きくなってしまい、手術をしても治療結果が悪くなる恐れがあります(図2)。
2.手術の方法
- 本手術は当院の麻酔専門医により全身麻酔のもとに行われます。
- 手術は関節鏡(関節用の内視鏡)を使って行います。キズは0.5~1cm程度の大きさで5か所です(図3左)。おもりで腕をつり、きれいな水を関節に流しながら手術を行います(図3右)。
- まず肩関節の内部全てを内視鏡で観察し、炎症による病的組織をクリーニング(掃除)したり、縮んで硬くなった関節包に切れ目を入れて関節の動きをよくします。
- 腱板の真上に出来た余分な骨をけずって平らにします(図4-①②)。
- 切れた腱板を骨に縫いつけますが、骨はかたいので針がかかりません。そこでまず、丈夫な糸がついているネジ(チタン製または2年で溶けるネジ)を骨に入れます。そしてこの糸を腱板に掛けて結びます。こうすることで断裂部分が修復されます(図4-③④⑤)。
3.手術により期待される効果
手術で縫いつけた腱板はゆっくりと骨に根を生やし3~6か月かけて完全にくっつきます。それとともに肩関節機能(痛みや筋力)は徐々に回復してゆきます。ただし改善の程度は手術前の筋力や腱の質の状態にも左右されるため、多少の個人差があります。
4.手術以外の治療法
断裂の部位、大きさによっては注射やリハビリ(肩関節機能回復訓練)で一時的に肩の動きが良くなる場合があります。しかし、あくまでも一時しのぎであり、切れた部分がくっつくことはありませんので将来的に症状(痛みや力の弱さ)がぶり返すことがほとんどです。そればかりか時間が経つと断裂部分が大きくなり縫合不能(手術自体が不可能)となることもあります。
5.手術後の合併症(不都合なこと)
- 感染:手術をした部分にバイ菌が付いて化膿することです。本手術は関節に清潔な水を流しながら行うため、感染はめったに起こりません。念のために手術後に抗生物質(化膿止めの薬)を点滴します。
- 神経・血管の損傷:キズのまわりの感覚が少し鈍くなることがありますが生活に支障をきたすことはありません。ほとんど出血しませんので輸血の心配はありません。
- 関節がかたくなる:手術後、関節は一旦かたくなります。リハビリで柔らかくしてゆきます。喫煙者および血糖値が高い方では関節がかたくなることがわかっていますので注意してください。痛みを我慢した無理なリハビリやリハビリのやり過ぎも、炎症を悪化させ関節がかたくなりますので注意してください(特に術後3か月まで)。
- 縫合部の再断裂:術後3か月間は縫いつけた部分が完全に付いていないため、乱暴なリハビリや重い物を持つと再び切れる恐れがあります。自力で腕を上げるのは手術後6週間禁止、10kg以上の重量物を持ったり畑仕事や除雪は3か月間禁止です。大きな断裂(幅5cm以上:『広範囲断裂』とも呼ばれます)では術後しばらくしてから自然に切れてしまうことがあります。
- ネジが抜けてしまう:75歳以上の方(特に女性)は骨が比較的もろいため、ごくマレにネジがぬけることがあります。その場合は再手術が必要です。
- 痛みが残る・肩手症候群の発生:関節がかたくなった場合はきつめのシャツを脱ぐときなどに軽い痛みが残ることがあります。肩の手術後、指がしびれたりむくむことがあります(肩手症候群)。もともと関節がかたい場合や喫煙者、血糖が高い方に起こりやすいといわれています。関節が柔らかくなるにつれて、ほとんどの場合半年~1年で改善します。
6.手術後のリハビリ
別紙の写真付きのリハビリ説明書をご覧ください。
7.追加手術
体内に入れたネジは抜きません。他科の検査(CTやMRI)でも支障はありません。
参考資料
1) にしいちブログ 2014/7/13
2) にしいちブログ 2016/12/26